うそ日記
これは、私の日記ではありません。
うその日記です。
11−2016 9月9日
一人暮らしの部屋で、ふと、目に入ったぬいぐるみと話せたらいいなと思った。
どうせ話すなら、それなりに会話をしたい。そうなるとあれだ、スキンシップとかもできるといいな。
などと考えていくうちに、私の思いはぬいぐるみを離れて、人間へと近づいていく。
なら、やっぱぬいぐるみのままでいいや。
12−2016 9月10日
ランプだけしかない宿があると知って、いつか泊まりたいと、ずっと願っていた。
ようやく念願叶い、一人で憧れのランプの宿に、夜が来た。
一人の夜がなんだ。スマホがまぶしい。
13−2016 9月11日
私のインタビュー記事が雑誌に載る日が来るなんて、一体、誰が想像しただろうか。
私自身、こんな未来が待っていようとは思いもしなかった。
それもこれも、うそ日記を続けていたおかげだ。継続は力なりとはこのことだな。
14−2016 9月12日
小学生の頃から、幾つもの消しゴムを使ってきたけど、小さくなった消しゴムがどこへ行くのか、私は知らない。
私もいつか、跡形もなくそっとどこかへ行きたい。
15−2016 9月13日
早起きをして、布団を干した。
午後にはもう取り込んで、昼寝の準備。
晴れた空気を吸い込んだ布団にくるまって、私は幸せの匂いをかぐ。
明日もいい天気になりますように。
16−2016 9月14日
荷物を受付に届けるのが、密かな楽しみの俺。
「あれ?メガネ外しました?担当が変わったのかと思ってました。」受付のあの子はそう言った。
コンタクトにして1ヶ月。今頃やっと気づいてもらえたようだ。
喜んでいいのか悪いのか。
彼女の中に俺が二人存在したのならそれもいいな。
17−2016 9月15日
今日はバレーボール部の練習をサボって、自転車で、友達と海へ行った。
太陽が傾くまで、好きな子の話をした。
同じ人を好きで、驚いたけど。
18−2016 9月16日
待ちわびた作家デビューの時。
私は、ずっと気になっていた万年筆をとうとう買い、原稿用紙に向かう。
そのイメージトレーニングは、もう出来ている。
19−2016 9月17日
子供の頃。日曜日の夜になると、夕食は決まって、家族全員でクイズ番組を見ながら食べた。
家族で、我先にと回答を言い合って、笑った。
今となっては、オカンが正解したとき、もっと褒めてあげればよかったと思う。
20−2016 9月18日
ソフトクリームを僕に渡して、彼女はにっこり微笑んだ。
僕は、差し出された指先に、見とれた。
彼女のぽっとはにかんだような桃色の爪に、桜貝を思い浮かべた。
歩き出すとき、強く握らないよう気をつけなくちゃと思った。