てつねこくおりてぃ

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【エッセイ的なもの8】喫茶店のママ

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いつの間にか、あちらこちらにカフェ、チェーン店のコーヒーショップが増えた。

おしゃれなカフェができたと聞いては、いそいそと通っていたのだが、ふと気がつくと、昔ながらの喫茶店が、減ってしまったのか、喫茶店を見つけるのが難しくなったようだ。

 

その上、ようやく喫茶店を見つけても、簡単には入ることができない。

なぜなら、喫茶店には、何か曰くがあるような、なにやら古式ゆかしい名前が付けられていて、店のコンセプトがよくわからなかったりする。

今一番気に入ってる喫茶店が、「イーグルス」だし、以前通っていたのが「ロク」だった。お店の名前からは、どんなお客さんが集まっているのか、どんなお店にしたかったのか、いまひとつよくわからない。

とにかく喫茶店は、入ってみないことには中の雰囲気がよくわからないのが怖いのだ。お店を覚えてもらい、お客さんに来てもらうためにつけたであろう名前のはずが、新参者が入ってくるのを拒んでいるかのようだ。

その点、チェーン店のコーヒーショップは、均一化されたメニューと店内の装飾で、知らない街でも安心だ。どんな店員さんがいようと、お客さんがいようと、どの店もほとんど変わりがない。

これはこれでありがたいのだが、色気がない、と思う。

 

しかし、喫茶店には、個性がある。

たいてい地元の常連さんたちがいて、一種異様な空間を作り上げていたりする。

常連さんは、テーブル席が空いているのに、なぜかカウンターにひしめいていたりする。座る席もおそらく決まっているのだろう。

そのため、初めて入る喫茶店では、常連さんたちが作り上げた空間を壊さない席を素早く見つけて、さりげなくそこに座る必要がある。

 

さらに喫茶店で注意が必要なのが、ママ、マスターの個性である。

初めてのお店だと、まずはご機嫌を損ねないようにしなくてはならない。

 もちろん、常連さんにもだ。

 

さて私は、週に一度、とある喫茶店でランチを食べることにしている。

しかし、私は店の存在に気が付いてから、その店に入るまで1年を要した。

まず、知人にその店を教え、偵察に行ってもらい、ママの作る手作りのお惣社ふんだんのランチが、非常に良かったという感想を聞いて、私はようやく店に入ることができたのだった。

 

中に入ると、ゆったりした店内に籐の椅子とテーブルが並んでいる。腰掛けると、低くて、天井を高く感じられて、とても落ち着く。

ママが仕切っている店でありがちな、造花や手作りの人形なんかの飾りもない。

 

私はいつも、常連さんの邪魔にならないように、ランチタイム終わりぎりぎりに店に入るようにしている。カウンターから遠い窓際の席に座って、カウンターにいる常連さんとママの間で繰り広げられる癌やカラオケの話、アルバイトとママとのかみ合わない会話を聞くとはなしに聞いている。

 

これはもしかすると、「喫茶店デビュー」というものなのかもしれない。

 

今となっては、週に一度の喫茶店通いが私の心の拠り所になりつつある。

「ママ。また来たよ。」そう言ってお店に入ることもできるようになった。

社会性の低い私が、喫茶店という小さなコミュニティーの隅に居場所を見つけつつあるのかもしれない。

人にはやっぱり、ここしかないという愛着のある場所が必要なのだ。