てつねこくおりてぃ

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【エッセイ的なもの12】すもものおじさん

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夕暮れ時を狙って、私は散歩に出かける。1人の時もあれば、誰かと連れ立って出かける時もある。

 ただ行き先はいつも決まって、お気に入りのルートを歩いて、桜並木の参道の向こうにある神社まで行くのだ。そして、神社に参拝したのち、また来たとおりの同じ道をスタスタと戻ってくるのです。

 

その日も、夕暮れを前に2人で連れ立って散歩に出かけた。

いつものお気に入りのルートは、家を出て神社までの3分の1ほど進んだところで、急に田園風景となる。

田んぼの間を蛇行する農業用の水路に沿って歩くと、山の方から吹いてくる風がとても気持ちよくて、タイの山奥で見た田園風景を思い出させる。

そうして農道から古い農家のある集落へと抜け出たところで、前から白髪交じりの男性が一人歩いてきた。名前は知らなかったが、顔には覚えがあった。

 

その日のさらに数日前に3人で連れ立って散歩に出た時、神社からの帰り道で、連れが、「ねえこれ、ミントじゃない?」と、一人が道端に自生する植物を見て声を上げた。

どれどれと青く茂った葉に集まり、私たちは葉をちぎって、立ち上るミントのようなレモンのような爽やかな香りを嗅いだ。

 

「持って帰りますか。」

顔を上げると、家庭菜園での作業終えた男性が、私たちに笑いかけている。

彼はそう言うと、持って帰って植えれるようにと掘り起こして、根をつけたままのものと30センチほどに切ったものとをもたせてくれた。

私たちは、ミントの爽やかな香りをまとって、嬉々として帰った。

 

そして数日後、神社へ向かう道で、またその男性に出会った。

 「こんにちは」

今度は、私の連れが、こちらから元気よく声をかけた。彼女が声をかけるなんて意外だったが、私は嬉しかった。

「私の田舎では、こういうのが当たり前なのよ。」と彼女は笑っていた。

 

そうして私たちは、他愛のない話をしながら神社へと向い、それぞれに願いをかけた。

その帰り道、先ほどの男性が妻らしき人と家庭菜園をいじっている。横を通り過ぎようとすると声をかけられた。

「すもも食べますか。」

私たちは遠慮しつつも、ほころんだかをを隠せず、

「えーいいんですか。ありがとうございます。」と答えていた。

私たちの答えを聞くや否や、妻らしき女性はすたすたと家の中へと入っていく。そうして彼女はすももを手に戻ってきた。

 

「このままでも美味しいけど、冷たく冷やしたら美味しいですよ。」

赤く輝くすももは、店で見るすももよりずっと小ぶりだったが、綺麗に洗われて小さなビニール袋に入れられていて、一人に1袋ずつ手渡された。

 

おそらく、あの男性は、私たちがまたこの道を戻っていくことを予想して、すももをあげようと袋に入れて用意してくれていたのだろう。

 

すももを手に私たちは歩いた。すももは甘く私たちを癒した。

 

 

*エッセイ的なもの、他にも

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